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仮装して踊って練り歩く ~火伏のお祭り“水しぎ”~

VOL.039 古山 周太郎(安全安心生活デザイン学科)

10月31日といえば、ハロウィン。若者を中心にすっかり定着したこのお祭りは、仮装して街を練り歩くことが、魅力のひとつになっていることは間違いないでしょう。テレビのニュースでは、思い思いのコスチュームを身に纏い、奇抜なメイクを施して、興奮気味に繁華街を闊歩するグループが映し出されることも珍しくなくなりました。そんなテレビの映像をみて、「まったく、日本人がまた西欧のものをマネしおって」などとぶつくさ言う御仁や、「もう、最近の若い女性は、よくあんな破廉恥な恰好ができるわ」と嘆く御婦人もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ハロウィン以外にも、街の中で仮装して練り歩く行事は、現代にもちゃんと残っています。つい先日、宮城県登米市に伝わる“米川の水かぶり”がユネスコの無形文化遺産に登録されたとのニュースもありました。この祭りは、藁のしめ縄を体中にまきつけ、顔に墨を塗った男たちが、家々に水をかけながら火伏を祈願して歩く祭りです。実は思っているよりも、仮装して街中を歩くという行為は、私達の文化として、形を変え引き継がれているのではないでしょうか。

消防団の屯所前で待機する出発前の“水しぎ”の踊り手たち

岩手県気仙郡住田町で江戸時代から伝わる、火伏の祭り“水しぎ”も、仮装し唄って練り歩く祭りの一つです。この祭りは、気仙川と江刺街道、盛街道が交わる宿場町であった世田米(せたまい)町で、現在も続いています。山中の宿場町の宿命で、冬場に山から吹き降ろす強風は、時に町全体を烈火に包む火事を引き起こしてきました。記録によると、町全体が灰と化す大火事に、町は何回も見舞われていたそうです。町民たちが最も恐れていた大火。それを未然に防いだ言い伝えが、次のように語り継がれています。

ある冬の寒い夜、宿の軒先で寝ていた野宿者が、夜分遅く焦げ臭い匂いしたので身を起こすと、一軒の家から火が出ていました。彼は「さあ、こりゃ大変だ、皆に知らせなきゃっ」と思いましたが、大声で叫んでも強風でかき消されてしまって、寝てるひとたちは起きやしません。それじゃあということで、枕代わりにしていた穴のあいた鉄鍋を、木の棒で思いっきり叩きながら、「みっさいなー(見てくれー)、火事だー」と町中を触れ回りました。町民たちは彼にたたき起こされたおかげで、火事に気付き燃え広がる前に消し止めることができたそうです。

それ以来、町を救った功績を讃えようと、毎年1月24日に“水しぎ”祭りが行われています。野宿者に扮して仮装した一団が、人々の安全と幸せを願い、鉄鍋に似せた一斗缶を打ち鳴らし、唄って踊りながら、家々を廻るのです。そのときに歌う数え歌「大黒舞」の歌詞がなかなか面白いので、紹介しましょう。

見っさいな、見っさいな
見っさいな、見っさいな

御大黒というひとは、
一に、俵を踏んまえて
二に、にっこり笑って
三で、盃求めて
四で、四方いいように
五つ、泉が涌くように
六つ、無常息災に
七つ、何事ないように
八つ、屋敷を平めて
九つ、心をおさめて
十で、宝をおさめて
大黒舞もこれまでよ

はあ、見っさいな、見っさいな
見っさいな、見っさいな

大黒舞の練習を兼ねての踊りのデモストレーション

“水しぎ”で歌う「大黒舞」の映像はYou Tubeにもアップされていますので、メロディーを知りたい方はぜひそちらをご覧ください。

“水しぎ”の日は、仮装した一団が町中を練り歩きます。都会のように繁華街を練り歩くことはないですが、高齢者の施設や町役場など、とにかく人の集まる色々な場所で踊りを披露するのです。なかでも一番盛り上がるのは小学校です。“水しぎ”の集団が、教室に入ると子どもたちは大興奮。なかには、化粧を見破って「○○君のお父さんだ!」などの声をあげる子や、低学年になると怖くて泣き出す子もいます。教室まわりが終わると、校舎の外で子どもたちと一緒に記念撮影。1月ですので、校庭では、“水しぎ”の踊り手たちと雪合戦がはじまったりもします。

家々のガレージに入っていく踊り手たち

 

雪が積もる小学校の校庭での集合写真

冬の風物詩としてすっかり世田米の町に溶け込んだ“水しぎ”ですが、一度途切れてしまったことがありました。それを数十年前に消防団の若手が復活させたのです。最近では、参加者が少なくなったために、住田町内の他地区や、遠く東京からも参加者が集います。誰でも参加可能、というわけではないですが、住田町と縁のあった人々が、新たな踊り手となっているのです。さらに、最近では一番の踊り手を決める、“みずしぎっぺコンテスト“が開催され、優勝者には米一俵が贈呈されています。
かくいう私も、数年前からこの祭りに参加しています。雪が舞う真冬の寒さの厳しい時期、1日中踊り続けるとクタクタになります。しかし、迎えてくれる家々の御爺さん、御婆さんの笑顔や、子どもたちの興奮気味の表情をみると、不思議と元気が出てくるのです。

みずしぎっぺコンテスト

町を仮装して練り歩く、そして歌い踊る。多分、世界中で行われているこれらの行為は、参加する人、それを見て楽しむ人、様々な人たちを引き付ける魅力にあふれたものなのでしょう。私も、ガンガンと一斗缶を叩き、数え歌を熱唱しながら、その意味を体感できる機会として、体力の続く限り“水しぎ”に関わり続けたいなと思っています。

 

古山 周太郎

専門は福祉コミュニティデザイン。福祉と都市計画の橋渡しを目指して調査研究を行っています。

主に、フィールドワークを中心に、仮設住宅のコミュニティ支援から障害者の地域生活支援まで幅広いテーマで実践的な研究に取り組んでいます。現在は、インクルーシブ防災の考え方を、いかに日本の地域社会に定着させ実現するかに注力しています。

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