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学長室

学長メッセージ集

No.31未来を信じて

2015.09.18

「発達障がい」という言葉を私が始めて聞いたのは私がある高等専門学校(高専)に着任した平成17年です。私はその頃から、この問題を意識するようになりました。高専は学年制※をとっている為、その学年で指定されている全ての科目で合格点を取らなければ進級出来ない制度になっていました。私は、工科系の学校に、発達障がいを持つ学生の割合が多いと、感覚的に思いました。発達障がいをもつ学生はある特定の分野で素晴らしい能力を発揮する例も多くありますが、万遍なく多くの授業科目の単位を取ることが難しい場合も多いようです。そのような状況ですので、入学した1年生の学生に対しては、全科目が合格点でなくても特別な計らいで、ひとまず2年に進級させ、その後にこのまま続けることは難しい旨を保護者とも相談し、理解してもらい、次の年には自主退学に導いていくよう対応していたように私は理解しています。現実的な対応で止むを得ないのかもしれませんが、私はこのことに疑問を感じていました。

教育は本来、一人一人の生徒・学生の能力を引き出すためにあるもので、一律の基準で行うことには問題があると思っています。大部分の学生にとってはいいのでしょうが、特別な個性を持つ学生に対しては別な基準を持ってもいいのではないかと思いました。場合によっては緩い基準で出来るだけ最終学年まで進級させ、卒業させるのがいいと思ったのです。卒業した後、その学生を引き受けてくれる企業があるかどうかは分かりません。しかし、在学期間を仲間と楽しく過ごすことが出来たということが、その学生の将来に大きな実りであることは容易に想像できます。そして、それが教職員がなし得る最高のことと思います。私は発達障がいの学生を企業がある一定割合、雇用しなければならない時代が必ず来ると信じ、高専の教職員に私の考えを伝えました。その当時、すでに身体障がい者については、ある一定割合雇用しなければならないという法律があったからです。

その時から8年が過ぎた平成25年6月、昭和35年に制定された「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。そして、平成28年4月より交付されることになりました。その法律の第1章第2条では、「身体障害、知的障害又は精神障害」が「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)」と改正されました。精神障害の中に、発達障害が明瞭に含まれるようになったのです。さらに第37条の「身体障害者又は知的障害者の雇用に関する事業主の責務」が、身体障害者、知的障害者、精神障害者は「対象障害者」という言葉に一括され、「対象障害者の雇用に関する事業主の責務」となり、その範囲が拡大されました。このことに私は大きな喜びを感じました。私自身、何も努力はしませんでした。しかし、将来に夢を持ち、その実現を信じ続けたことが実現したことに、本当に嬉しく感じました。

ダブルスタンダード(二重規範)と言う言葉があります。「類似した状況に対してそれぞれ異なる指針が不公平に適用されること、同種事象への対処にあたって相矛盾する二つの基準を使い分けることを指す(ウイキペディア)。」「同一の基準・指針を適用しうる状況において、異なる基準が不公平・不平等に適用されること(新語時事用語辞典)。」このように、ダブルスタンダードという言葉はいい意味で使用されていません。

しかし、個性を持った“人”をあつかう基準について、常に同一の基準・指針を適用しなければならない、というのはあまりに機械的であり、人間味がありません。真の平等を求めるためには、基準・指針の適用に当たって、人間の英知が発揮されてしかるべきではないかと思いますが、如何でしょうか。

※学年制:1年ごとに与えられた教科・科目を学習し、すべての単位を修得すると次の学年に進級できるシステム

 

平成27年9月18日 東北工業大学 学長 宮城光信